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2018年12月19日 (水) 04:15 | このエントリーを含むはてなブックマーク はてなブックマーク - 映画『へレディタリー/継承』 Hereditary ネタバレでお節介な解説 | | | Edit |
いつもなら気に入った映画の分かりづらかった所をスッキリさせる記事を書くところですが、今回は・・・スッキリしねえ!
多くの人に絶賛されている映画なのに、これはどうしたことか。

映画の公式サイトにあった『観た人限定完全解析ページ』や、『完全解説』を謳う個人ブログとかをいくつか覗いたりしたけれど、
全 然 ダ メ。 初歩的なポイントのただのネタバレが書かれているばかりで読んでむしろストレスが溜まりました。 完全を名乗るならもっと・・・
 
壁に書かれていた文字の意味とか出典なんてどうでもいいから!それよりもっと話の本筋に分からない所があるんだよ!!!

そんな方に読んで又検証しても頂きたいこの記事は、
まず私自身のストレスを吐き出す為に「ネタバレで良く分からないところ吐き出し」と題して書き始め・・・、結果的に、大筋について辻褄が合う物語であると理解することが可能という結論にまでは達して「ネタバレでお節介な解説」に改題してアップするに至ったものです。
上記のどのサイトよりも格段に「完全」に迫る事が出来ていると自負しています。
 
1~4項の前半までは、一つの疑問について解釈をしては新たに生まれる疑問について考える、という書き方が続くので、興味のある方にはまず全体をまとめた解釈(4項後半)を読んで頂き、そこに異論あれば各項に飛んで突っ込み等頂ければと思います。


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【ストーリー(概要)】
家長である祖母を亡くしたグラハム家の4人は、力を合わせ悲しみを乗り越えようとするが、祖母は忌まわしい「何か」を家族に残していった……。





~~~ 以下、完全にネタバレ ~~~




【目次】
0.【登場人物紹介】
1.なぜラストシーンでピーターは「チャーリー」と呼ばれたのか?
(チャーリーはいつからペイモンだった?)
2.チャーリーが家の外で見た幻覚や鳩の首の件は物語に必要だったか?
3.なぜ「継承」があのタイミングで一気に行われたのか?
4.兄の生前および死後チャーリーに入るまで、ペイモンはどこにいた?(降霊会の必要性は?)

   ★辻褄の合う解釈をいったんまとめ★
5.アニーはどこまで正気だったか?
6.ピーター、お前も大概だぞ
7.スティーブ(お父さん)は呪いに操られてはいなかったか
8.スケッチブックを燃やす目的
9.ピーターを精神的に追い詰めるためにここまで手間が必要だったか?
10.スケッチブックに描かれた絵のピーターの目が全てバツ印で潰されていた理由
11.事故後にマリファナを吸ったピーターに、チャーリーのナッツアレルギーと同じような症状(呼吸困難)が出たことの意味
12.ジョーンがアニーにご馳走してくれた飲み物に入っていた黒い物体
13.チャーリーが家ではなくツリーハウスに寝泊まりしていた理由
14.ジョーンの家でグラス動かしたりしてみせていたのはペイモン?



【登場人物】
アニー・グラハム(母):  トニ・コレット
どこからどこまでが正気(自分の意志)だったのかさっぱりわからない人。ミニチュアアーティスト。旧姓リー。

ピーター・グラハム(兄):  アレックス・ウルフ
色々現実逃避したくてマリファナにはまっている高校生。16歳?

チャーリー・グラハム(娘):  ミリー・シャピロ
寡黙・無表情で不気味な絵とか工作とか作るのが趣味っぽい13歳。ナッツアレルギー。

スティーブ・グラハム(父):  ガブリエル・バーン
主要登場人物中で唯一の常識人。唯一の謎は、なんであんな嫁と結婚したのか。

エレン・リー(祖母)
悪魔ペイモンを崇拝する教団の教祖。今回の諸悪の根源。王妃リー。

エレンの旦那(祖父)
精神病を患って最終的に餓死したらしい。王???もしかして名前は・・・

エレンの息子(アニーの兄)
「お母さんが身体の中に何かを迎え入れようとした」と言い残して16歳で自殺。

ジョーン:  アン・ダウド
自称孫を亡くしたというおせっかいおばちゃん。実は悪魔崇拝教団の信者。



●1.
まず、なんでラストシーンでピーターは「チャーリー」と呼ばれたのか?という所から考えてみましょう。

状況に戸惑っている雰囲気のピーターに対して、ジョーンが「チャーリー、落ち着いて」と呼びかけます。
この時点で、ピーター自身は死んでいて中身はペイモン。
ペイモン様とかピーターと呼ばれるなら分かるけれど、なんでチャーリー?

あのピーターの中身は、チャーリーでありペイモンである?
チャーリー = ペイモン ?

なるほど、アニーがチャーリーに「あなたは赤ちゃんの時も泣かなかった。生まれたときでさえ」なんて普通ならあり得ない話をさらっと言っていましたし、チャーリーも鳩の死骸の首を切り落として持ち歩いたりと不穏な行動をとっていましたね。
しかし・・・ チャーリー = ペイモン ? 私は映画を観終わってからもしばらくは、チャーリーの人格(魂)とペイモンの魂はそれぞれ別個のものだと思い込んでいました。チャーリーは、お婆ちゃんによる歪んだ子育てと体内に封じ込められている悪魔の影響で性格が歪んで育ってしまっただけで、本来は普通の女の子なのだと。 公式サイトの解説でさえ「チャーリーが生まれたときから、ペイモンは彼女の中に存在した」と書いています。
しかしどうやらそうではない。
チャーリーとは、女の身体を持ってしまったが為に悪魔として覚醒・自覚出来ないまま育たざるを得なかっただけのペイモン本人だったのですね。チャーリーという可哀想な女の子(の魂)なんていなかったのか・・・

でも、それじゃあおかしくない?

チャーリーって、お婆ちゃんに授乳から何から世話をされついでに何か忌まわしい儀式も施されたから(生後の後天的な要因によって)、ああいう子に育ったんじゃないの? 生まれる時点で、つまりお婆ちゃんの手に掛かる前からペイモンになれたのだったら、ペイモンは初めからピーターに入って生まれてくれば良かったじゃない?

この齟齬を解決するには、呪いの儀式は生まれる前の胎児の段階で施されたと考えるしかありません。 ピーターは妊娠中からお婆ちゃんから完全に隔離されていたのだと。
劇中の話やミニチュアで強い印象と嫌悪感を残した「お婆ちゃんによる授乳」という行為は別にペイモンの憑依に必要だったわけじゃない、観客をただキモがらせる為のエピソードになってしまいますが、強いて言えば、ペイモン様に自分の血肉まで与えて尽くしましたよと印象付けたかったんですかね。

で、チャーリーがお婆ちゃんの望み通りについに「男の子になった(ピーターの死体に乗り移った)=悪魔ペイモンとして自覚を持ち覚醒できる状態が整った」という結末だったという事でOKなのかな?

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ちなみに、エレンお婆ちゃんの遺品の家族名入り玄関マットには、チャーリーではなく「チャールズ」(男性名)と書かれていました。
このラストシーンでは「チャールズ」と呼び掛けられた方がぞわっとしたかも?
(※チャーリーはチャールズ又はシャーロットの愛称)
というか、劇中で明かされないお祖父さんの名前、まさかチャールズではあるまいな?

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次。

●2.
チャーリーが家の外で見た幻覚(?)や鳩の首の必要性がよく分からない。

劇中で時々登場する不思議な光。あれはまさにペイモンの意志による何かですが、チャーリーの生前から、教室にいるチャーリーにちょっかい出したり、教室の窓に鳩をぶつけたり、家ではチャーリーに窓の外を見るよう&外に出てくるよう誘い出したり、ペイモンはチャーリーとは別の意思を持っているかのように何かちょこちょこ活動しています。
家の外に出たチャーリーは、火に囲まれながら座る人の後ろ姿(たぶんエレンお婆ちゃん)の幻覚を見て、この後から一気に物語が転がり落ちていくわけで、あれらは時が来た事を告げる何かだったらしいのですが・・・、意味や必要性は曖昧です。
仮に予兆であったとして、それを感じるのはアニーであるべきだったのでは?

この後、アニーはバーベキューに出かけたいというピーターに強引に妹チャーリーも連れて行かせます。
傍目には、いかがわしい場所に行ったり悪さをしないよう妹を足枷(監視役)として連れて行かせるという、まぁよくある判断にも見えます。が、どこか強引過ぎて不自然さが目立ちます。お前さっき「これからは私があなた(チャーリー)を守る」って言ったばっかりだろと。
後日、アニーはピーターから「なんで嫌がってる妹を連れて行かせたんだ」と突っ込まれますが、答えられません。
もちろんこれは呪いのようなものにより、アニー自身にもその理由は分からないまま(無自覚なまま)連れて行かせなければならないと思い込んでしまったものです。その先の事故(さらにその先)まで定められた運命が動き出します。

っていうか幻覚を見たりした当のチャーリー(現ペイモン本人)なんかは、あろうことかパーティーなんかに行きたくないと嫌がる始末。 そこはむしろチャーリーが「私もパーティーに行きたい」と言い出しての「妹も連れて行きなさい」という流れであるべきだったんじゃないの?ダチョウ倶楽部かお前。

どうにか解釈するなら、
チャーリーが見た光や幻覚は、ペイモンがチャーリーに何か働きかけたというより、ペイモン自身でありながら自覚の無いチャーリーが、エレンお婆ちゃん達が仕掛けた大きな呪いの発動を感じ取ったという描写だったのかもしれません。

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ここまで辻褄は何とか合っているのでしょうか・・・。


鳩の首について補足すると、チャーリーお手製の人形達が、後にラストシーンそのものの状況を模す形で登場しています。
ジョーンの留守中の居間のテーブル上です。テーブル真ん中のピーターの顔写真以外は一見ごちゃごちゃしているだけで判りづらいのですが、首(ウサギやネズミ)を捧げて土下座する人形数体が並び(ポスターにも出ているやつ)、その人形達の拝んでいる先には冠をかぶった鳩の首が付いた人形が立っているのです。(当場面の画像は後ほど13項の所に貼っておきます。)
頭をぶつけて死に首を落とされ冠を被せられた鳩は、まるでチャーリー。その人形を製作したのは生前のチャーリー自身であるし、あの結末に至る運命はずっと前から決まっていたらしい事を暗示しています。
でも、身も蓋も無いことを言うと、それだけなんだよね。何の役割(必要性)も持たされていなくて、物足りないと思ってしまいました。


まぁいいや、次。

●3.
なぜ「継承」があのタイミングで一気に行われたのか?

お婆ちゃんの死って必要要件だったのだろうか?
なんか、ペイモンが絵で生首3つを持っていた気がするので、最終的に(エレンの血筋の)女性3人の生首(死)が復活の生贄として必要だったんだろうなとは察せられるのですが、お婆ちゃんの死をきっかけに運命が一気に動き出した理由がわかりません。
エレンお婆ちゃん、悪魔崇拝の教祖だったけど、生きているうちに首切断するのはやっぱり怖かったのかな?

っていうかちょっと待って。

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アニーのお兄さん(エレンの息子)が16歳の時に「お母さん(お婆ちゃん)が身体に何か忌まわしいものを迎え入れようとした」と言い残して自殺しています。
もちろんペイモンなんでしょうけれど、その時は生首3つは要らなかったの?
その時はまだチャーリーは生まれていないから、エレン・リーの血筋の女性の首は集めても2つしか無いんだよなぁ。他の人の首でも良かったのかな?それとも首の数が足りないから儀式に失敗した?そもそも首は必要ない別の方法の儀式だった?

っていうかリー家の血筋って何なの?エレンから特別さを獲得した(悪魔崇拝を開始した)の?エレンの母親は一般人なの?
エレンの旦那(アニーの父)も精神分裂病を患って最終的に餓死という事でしたが、それが単なる精神病なのか悪魔が何か関係したのかは分かりません。この人の死をきっかけにエレンが悪魔崇拝に傾倒したという可能性もありますが、不明。(後述)

まぁ、ここら辺は全部明らかになってなきゃいけない部分ではないので、別に分からないまま終わるのは構わないんですが、一点注目しても良さそうなのは「アニーの兄が16歳の時に亡くなった」という点ですね。
劇中でピーターの年齢は語られませんが、たぶん16~17歳くらいでしょう。亡くなった兄と同じ年頃です。きっとそれくらいの年齢の肉体がペイモンの器としてちょうど良いのでしょう。
つまり解釈としては、エレンはピーターの肉体が成熟するまで待っていたが、その前に病に倒れ身動きもままならない長い闘病生活に入ってしまった。そんな中でどうにか自分の死をもって動き出す呪いを家族に仕掛けた。という事になりますか。


ここで次の疑問が出てくるのですが、

●4.
兄の生前および死後チャーリーに入るまで、ペイモンはどこにいた?

兄の生前については不明ですが、エレンが教団の中で「王妃リー」として特別な地位(おそらく教祖)にある事から、兄の生前はペイモンはこの世にはおらず(地獄にいて)、エレンはそのペイモンをこの世に召喚する事に(半ば)成功した事で王妃という地位を得たのではないかとひとまず仮定して考えてみます。
Wikipediaのペイモン(パイモン)の項によると、「召喚者に地位を与え、人々を召喚者の意思に従わせる力も持つ」とされています。意思に従わせる・・・これは葬式で語られていたようにまさにエレンが持っていた能力です。つまりエレンが召喚者である事は間違いありません。
結局、器になるはずだった肉体(兄)が死んだことで完全な復活までには至らなかったとして、ではその後チャーリーに憑依する迄しばらくの間ペイモンがどこにいたのかといえば、それは・・・

光としてその辺をキラキラフラフラしながら男の子に憑依する準備が整うのを待っていたって可能性は・・・・・・いやダメです。それだとピーターに憑依する機会が来るまでずっとそうやって待っている事も出来たし、あえてチャーリーに一時的に憑依して13年も待った意味が分かりません。
つまり基本的には誰かに憑依した状態でないとペイモンはこの世に留まれない?
そう考えると、映画を観ている間はイマイチ必要性が分からなかったあの降霊会(に見せかけた何かの儀式)は、肉体を失ったペイモンをこの世に繋ぎとめておく為に必要な儀式だったのだろうと解釈する事が可能になります

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チャーリーに憑依する前にペイモンがどこにいたかという話に戻しますが、エレンの中に仮住まいしていた可能性も無いとは言えません。
しかし一番しっくり来るのは、やはりアニー。
アニーの魂に取りついたけど、アニーが子を身籠った時、アニーの魂からその胎児の魂にペイモンを移動させるにはお婆ちゃんによる儀式が必要だったのだが、ピーターにはお婆ちゃんが全く近付けさせて貰えなかった為にピーターへの憑依は失敗。次のチャーリーに憑依。(※ピーターへの胎児期の憑依に失敗したのか、はたまた最初から16歳になってから憑依する気だったのかは判然としません。)
そうするとアニーの夢遊病うんぬんという無自覚に分裂気味な人格の説明もつくし、アニーがミニチュアアーティストでチャーリーも工作好き、エレンも少なくとも玄関マットを作る程度には工作好きだったということで何かが遺伝してる感もありますしね。まぁ、ペイモンの特徴に「工作好き」というのは無いんですけども・・・
あっ。そうだ遺伝と言えば。
エレンもまた精神を患っていた、解離性同一性障害を発症していたと語られています。それはかつて多重人格障害と呼ばれていた病です。
つまり召喚者であるエレンにも憑依していた時期があった・・・? 且つ王妃でもあるという事は・・・?

なるほど。
考察が右往左往しましたがここまでを辻褄合わせて整理するとつまりこういう事です。



かつてエレンは旦那を生贄にしてペイモンを地獄から召喚する事に成功。
召喚者となったエレンは地位(教祖・王妃)と人々を意思に従わせる力をゲット。
魂やら何やらを捧げられて(奪われて)しまった旦那(王)は死亡(精神崩壊の上餓死)。血筋なのか年齢の問題なのか旦那はペイモンの器として耐えきれなかった模様。
エレンは憑依対象を失ったペイモンを自分の中に招き入れる。だから多重人格(のような症状)を発症。
やがてエレンの息子(アニーの兄)が16歳に。器として成熟。しかしペイモンを移されようとした兄はその前に自殺。
エレンは代わりにペイモンをアニーの中へ(やはり16歳の時?)。アニーは夢遊病(のような症状)を発症するも、悪魔(エレンの支配力)に対してそこそこの抵抗力は持っていた模様。
やがてアニーは結婚しピーターを妊娠。しかしエレンが血筋の子供(特に男の子)に対して何か邪悪な意図を持っている事を察しており、妊娠中からピーターをエレンから隔離。何度も中絶を試みるがそれは失敗。生まれてからもエレンをピーターに近付かせない。
アニーがチャーリーを妊娠。女の子だった事で油断したのかエレンへの抵抗を諦めたアニーによりチャーリーはエレンに差し出される。エレンはペイモンの魂をアニーの魂から切り離し、チャーリー(胎児)に宿す。(まだ魂を持たない胎児に対してのみ有効な儀式があるらしい。) 自分を普通の女の子だと思い込みながら悪魔ペイモン、チャーリーとして爆誕。
ピーターは成長して高校生に。しかしもうすぐピーターがペイモンの器として成熟するという段になって、エレンは病に倒れる。終末医療の末、死亡。しかしエレンは死亡前に、残される家族達に呪いをかけていたのだった。
ここから映画本編へ。



ずいぶん想像力をたくましくして空白を補完してようやく辻褄が合いました。

そういえば、映画最後で自殺したピーターはまんまとペイモンに体を奪われてしまいましたが、同じく自殺したはずのお兄さんは奪われずに済んでいるんですね。
何の違いが結果を分けたんでしょうか?
体が使い物にならないほど損傷する死に様だったとか?
キリスト教的にNGな逃避の為の自殺ではなく、キリスト教的にOKな自己犠牲的な死だったとか??
・・・なんてところまで想像を広げていくと、なんだか、このお兄さんを主役にしてエレンが悪魔信仰に嵌まっていく過程から始まりお兄さんの英雄的な死(ただし最後の最後でペイモンは生き延びる)で終わる、なかなかドラマチックで面白い『ヘレディタリー・ビギニング』という映画が1本作れそうな気がしてきましたよ。(笑)


●5.
っていうかそんな夢遊病があってたまるか、という話。(アニーはどこまで正気だったか)

ある夜、息子の叫び声にふと我に返ると、自分と息子の体に灯油をふりかけた上でマッチを擦って今まさに火をつけようとしている所だった、という話をあれは夢遊病だったのだから私は悪くない、大した問題じゃない、みないな論法で片付けようとするアニーですが、いやいや怖すぎるだろと。
別に昔からたびたび夢遊病を発症していたとかそういう話は一切無かったのに、いきなりそんな重大な事件を起こしかけておきながら夢遊病と決めつけて深刻に考えないアニーの思考回路が不自然過ぎて理解できない。
いや、分からないわけではないんです。この件のみならず、チャーリーをパーティーに同行させようとした件とか色々なところでアニーの言動・判断はことごとくどこかおかしいのです。アニーは無自覚なままお婆ちゃん(又は教団、ペイモン)に操られているのです。そういう事ですよね?
冒頭の葬式場面でアニーがペイモンのシンボルを模したネックレス(エレンお婆ちゃんとお揃い)を着けているところをみても、意識しないまま教団の立派な一員である事が察せられます。
我々が映画で観たアニーはすべて操られている人格でしかありません。そしてそんな状況に対して、悪魔の支配が弱まっている間にアニーの本来の魂が息子もろとも心中を図ったのがこの夢遊病事件。

●6.
そして、そんな事件の後も母親と一つ屋根の下で、夜寝る時も部屋のドアに鍵すらかけずに普通に暮らし続けるピーターもいまいち理解(感情移入)できない人物です。
いや、無理だろ。
マリファナに逃避する前に、鍵をかけよう、ね!?

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そして交通事故を起こしてさぁ・・・まぁわかるよ、後ろを振り向きたくない気持ちは。でも「大丈夫だ」ってなんだよおい。まぁそれも、あらゆる現実から逃避しようとしていた気のあるピーターというキャラを考慮して百歩譲って良しとしよう。振り向きもせずもちろん吹き飛んだ首も拾わずに車を発進するまでは分かるとしよう。
しかしそのまま家に帰って(妹の首なし死体を車の後部座席に残したまま)自室で寝る、って
そこは向かう場所は病院じゃないの? だってアレルギー症状起こして苦しんでいる妹を病院に連れて行こうと急いでいた途中だったでしょ?
だいたい、音や感触で何が起きたか察せられたかもしれないけど、首がもげたなんて事までは分からなかっただろうに。なんか頭ぶつけて気絶してるだけだったらいいなー程度のあり得ないような希望に縋ってそのまま病院に向かってくれたほうがまだ理解できました。
更に、、そこまで一万歩譲って飲むとしても、その後の夕食の場面で母親に向かって「何か言いたい事でもあるわけ?」とほざくのは、そこはもう本当に無理。私だったらその場でピーターを殺してただろうと思うくらい無理。

●7.
さて、唯一感情移入しやすいのがグラハム家の父、スティーブ。
常識人だし、あんな嫁と結婚した理由以外は分からない所は無い・・・と言いたいところですが、一点だけ気になりました。
学校で発作みたいなのを起こして顔を机に打ちつけて鼻を折って気絶しているピーターを、ただ家に連れ帰ってきてベッドに寝かせておくっていうのはどうなんだろう?
そこは、そここそは病院でしょうが?

そこで病院に連れて行ってさえいれば、その後の怒涛の地獄展開も少しは違っていただろうと思うと尚更その点しっくりこない事が残念なのです。
スティーブもまた悪魔やら呪いの力によって正常な判断能力が働いていなかった・・・と考えれなくもありませんが、そうするともう何でもありでつまらない・・・。
実は学校の校医も悪魔崇拝教団信者でその校医に「ピーターは家に連れ帰って寝かせておけば大丈夫」と言われた、とかいう展開なら良かったかな。

●8.
あと同場面におけるアニーについても、どうやらまともな思考回路は働いていないらしい事が分かっていても、お婆ちゃんの遺体を見つけた後にすぐに警察に通報していない不自然さがどうしても引っかかってしまいました。

あの時点のアニーは「エレンやジョーンは悪魔崇拝教団の仲間で、ピーターを狙っている」という事が分かっているわけで、しかもその連中は知らない間に家に勝手に入ってきてお婆ちゃんの遺体を屋根裏に置いていったんですよ。すごく怖いことじゃないですか。その狂った誰かが、(一応愛する息子の)ピーターを狙っている一味が、今も家のすぐ近くで見張ってるかもしれない、家に入ってきて襲ってくるかもしれない、もしかしたら学校にいるピーターが襲われるかもしれない。夫の帰りを待つとか、降霊に用いたスケッチブックを燃やすとかする前に、即通報が当たり前じゃないでしょうか。
それなのにそこでアニーに「スケッチブックを燃やせば解決だ!」って言いだされても「なんで?」としか思えないから、きっとスケッチブックを燃やしたら何か事態がさらに悪化するんだろうなぁという事が分かってしまうし、「スケッチブックを燃やすとアニーも燃える」んじゃなくて「スケッチブックを燃やそうとした人の体が燃える」のでは?という予想までたやすく浮かび、案の定スティーブが燃えても驚きが無かったです。「スケッチブックを燃やそうとした人の体が燃える」という予想は裏切られましたけれど、それがかえって何でもありかよと白けた気持ちにもさせられた次第。

さて、アニーが「スケッチブックを燃やせば解決だ!」と思い込んだのは、勿論ペイモン一味がアニーにそう思い込むよう仕向けたから。全て計画通り。
その目的の一つは、これで解決だ!と一瞬希望を持たせたところでスティーブを燃やして絶望に叩き落し、アニーの精神を完全に叩き壊す為(気絶させるだけでも可?)。そしてアニーを乗っ取る為。
もう一つ意味があるとすれば、それはスケッチブックを焼失する必要があった為。降霊アイテムだったスケッチブックは、霊(チャーリー&ペイモン)にとってこの世との繋がりを保つ必要アイテムである一方で、この後でピーターの中に定着する際には邪魔な縛りになるものでもあった、のだろうと思います。
 

●9.
その頃、気絶したままベッドで夜まで寝入っていたピーターなんですが、

もう完全に別人というか悪魔(使い魔)に憑かれたアニーは壁や天井を音もなく走りながらピーターの死角に潜み、先回りして、ピーターが1階に下りて父親の焼死体を見つけてショックを受ける様を見届けて、あえて部屋の遠い対角線の隅にあえて音を立てて着地して、それからピーターを追い回しはじめ、屋根裏部屋に逃げ込ませます。
こんな手間をかける必要があったのかという謎のクライマックス。
捕まえる気も無く追いかけるくらいなら、寝ている間にピーターを屋根裏に運んでしまえば良かったのではとか(だってその直前に車からベッドまで運んでるんだし)、ピーターを精神的に追い詰めるために父親の焼死体を見つけさせたかったのだとしても、じゃあ焼死体も屋根裏に持っていけば良かったんじゃないの、とか。
いっそピーターが寝ている間に首をコキャッとやって殺しちゃうのじゃ駄目だったの?という疑問も湧きますが、ペイモン教(キリスト教)的にピーターの死は自殺でなくてはならなかったのかもしれない・・・、、って、こんなに想像膨らませてフォローしてあげなきゃいけないなんて、なんだろう、これ。
天井に張り付いて頭をガンガン打ちつけてくるアニーとかは怖かったですけれども、その後いきなり屋根裏の宙に浮いた状態で表れて「お前瞬間移動したの?頭うちつけてたのはピーターを怖がらせようとしただけなの?」と途端に感じていた恐怖が薄れてしまうのも残念。なんだろう、これ。

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あと少し話が戻りますが、映画を見ながらよく分からなかったのは、

●10.スケッチブックに描かれた絵のピーターの目が全てバツ印で潰されていた理由。

●11.事故後にマリファナを吸ったピーターに、チャーリーのナッツアレルギーと同じような症状(呼吸困難)が出たことの意味。

●12.アニーがジョーンの家でご馳走になったハーブティーに何か黒い物体(ハーブの葉?)が入っているのを見つけて不思議そうな顔をした意味。

●13.チャーリーが家ではなくツリーハウスに寝泊まりしていた理由。

これらいずれのエピソードも、なんとなく意味を察せられる一方で、見た目ほど深い意味も伏線としての機能も感じられないというのが私の正直な印象で、でもそんなはずはない、きっと私が何か気付いていないだけでもっと深い意味があるに違いない、だって「超怖い」、「現代ホラーの頂点」、「大傑作」、「緻密に張り巡らされた伏線が~」etc.と私が信頼している筋の方々が(普段ホラーは観ないという方まで)揃って絶賛していたのだもの、と諦めきれない気持ちが私にこの記事を書かせています。

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ここまで、自分がよく分からなかった点について考えてきて、ある程度は辻褄の合う解釈を得ましたが、やっぱりまだ映画全体を通してはすっきりしない感覚が残っています。
かと言って、見落した伏線があったようには思えず、理解する為に2回目を観たいとは特に思いません。

この記事に貼る場面写真を探す際に、海外のマニアによる解説記事もいくつか辿りました。主に小道具についてふーんと思わせてくれる情報はありました。例えば先ほどスルーしたジョーン家のハーブについては、エレンが赤ちゃんのチャーリーに哺乳瓶で何かを飲ませている写真が出てきましたが、そこで飲ませていたのが同じハーブティーだったそうです。・・・で?って言いたい。 エレンの葬式でチャーリーににやにや微笑みかけていた男は、ピーターがスティーブの焼死体を見つけた後に戸口にぼうっと姿が浮かんでくる白塗り裸の男と同一人物 です。・・・で?って言いたい。

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壁の文字なんか、悪魔に関する有名な書物に出てくる単語だそうですが、出典はバラバラでその著者との繋がりや書かれた時代からペイモン信仰が続いていた事を示唆するでも何でもない。中二の落書き以上でも以下でもない。


結局、この映画に対する私の印象は、
露骨な伏線の数々はあまり効果的ではないか回収さえされないかのどちらか、隙だらけでつじつまが合ってるんだか合ってないんだかも分からない物語、夢オチ・幻覚オチを多用、常識的に考えられる対応策を取らない登場人物、目的に向かって無意味に手間暇をかけて回り道をする悪役・・・と、こうしたダメなホラー映画の条件を兼ね揃えていると言って良いのに、それらを斬新な演出と語り口(それと役者の顔)の力押しでごまかすことに成功している珍品
「全く抵抗できない運命や何らかの力によって定められた絶望的な結末に向かって一方的に押し流されていく恐怖を描いた」みたいな事を言われてもですね、、、正直、私個人的には怖くも楽しくもなかったです。ただ今までに存在したどんな映画とも違うような斬新な感じと、これを超怖いと思う人が多いという不思議な事実が、主に興味深いという意味で面白かったです。
つまらないとは言いません。たまたま私にはちょっと合いませんでしたが。
多分これを怖いと思う人は・・・人間関係・・・特に家族間のそれについて・・・(以下略)?



最後にもうひとつ疑問点。

●14.ジョーンの家の降霊会ごっこでグラス動かしたりしてみせていたのはペイモンなの?

その前に絵の具の瓶を倒した(アニーの手に当たる前に倒れています)時には窓の外が何か光っていたのでペイモンの仕業だとして、、ジョーン家の降霊会では不思議な光がきらめいたりはしていなかったのでペイモンの仕業ではない・・・のかな?
ジョーンは超能力めいた魔術まで使えるということ?
それともペイモンとは別の下級悪魔や霊を使った仕業?
まぁ、普通に考えればやっぱりペイモンの仕業なのだろうと思われるのですが、なんかそんな事をしているペイモンって可愛いっていうか健気ですね。HAHAHA。 コッ






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 監督・脚本のアリ・アスターは本作がデビュー作とのこと。  原題の「Hereditary」とは、「遺伝性の」とか「先祖代々の」といった意味。  グラハム家の祖母・エレンが亡くなり、エレンは娘のアニー(トニ・コレット)に手紙を遺している。そこには「失ったものに対して絶望しないで。最後にはきっとその価値が分かるから。」といったことが書かれている。エレンはアニーたち家族に何を遺して...
2018/12/20(Thu) 19:53:39 |  映画批評的妄想覚え書き/日々是口実
グラハム家の祖母エレンが亡くなり、エレンの娘アニーは夫スティーブンと高校生の息子ピーター、そして娘チャーリーと共に、家族を亡くした喪失感を乗り越えようとしていた。 ところが、やがて奇妙な出来事がグラハム家に頻発するようになる。 エレンの遺品が入った箱には「私を憎まないで」というメモが挟んであった…。 ホラー。 ≪受け継いだら死ぬ≫
2018/12/21(Fri) 00:12:59 |  象のロケット
【概略】 祖母エレンが亡くなったグラハム家。過去のある出来事により、母に対して愛憎交じりの感情を持ってた娘のアニーも、夫、2人の子どもたちとともに淡々と葬儀を執り行った。祖母が亡くなった喪失感を乗り越えようとするグラハム家に奇妙な出来事が頻発。最悪な事態に陥った一家は修復不能なまでに崩壊してしまうが、亡くなったエレンの遺品が収められた箱に「私を憎まないで」と書かれたメモが挟まれていた。...
2018/12/21(Fri) 10:07:02 |  いやいやえん
ヘレディタリー 継承・・・・・評価額1650円 イット・カムズ・アット・ナイト・・・・・評価額1650円 「ヘレディタリー 継承」と「イット・カムズ・アット・ナイト」は、共に若い映画作家によるセンス・オブ・ワンダーに溢れた恐怖譚だが、それ以外にも特徴的な共通点がある。 それは、全くシチュエーションは違えど、”家”と”家族”にまつわる物語ということだ。 ※ネタバレは避けてますが、な...
2018/12/22(Sat) 23:36:32 |  ノラネコの呑んで観るシネマ